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【おにロリ】冷たい洞の底から


xtofuyaさんに今日おすすめのおにロリは、『霊感が強いおにいさんと、多重人格のロリ』です。 https://shindanmaker.com/246765








 しんしんと雪が降っている。
 窓際の椿が、雪の重みで今にも折れてしまいそうだった。
「おにい、ちゃん」
 からからに掠れた声で、ベッドサイドの兄を呼ぶ。
 聞き取りづらいだろう醜い声に、私のたった一人の肉親は冷たい私の掌を握って、そっと身を寄せてくれた。
「どうした?」
「そと、にわの、つばき、が」
 咳がこんこんと続けて出てきて、二の句が告げなくなる。
 それでも、それだけで察してくれたのか、兄は私の胸を優しくさすりながら、ああ、あとで払っておくよ、と柔らかく微笑んだ。
 うちの庭には、植物がたくさんある。
 お母さんがいたころは、ふたりでよく世話をしたなあ。
 裏にある井戸から水を汲んで、庭中の花に水をやったのを覚えてる。
 お母さんは椿が大好きだったっけ。窓から見えるように、一緒に植えたんだったなあ。
 それから、悪い病気を倒すために植えたまよけの葉っぱ。あれ、なんだったっけ。とげとげしてて、触るといたいやつ。
 うん、あとでお兄ちゃんに聞いてみよう。
「疲れたか?」
「ちょっと、だけ」
「まだ夕飯まで時間があるよ、ゆっくりおやすみ」
 火鉢で温められた部屋は心地良い静けさに満たされていて、耳を澄ませばふたつの心音まで聞こえそうだった。







「なァーにが、ああ、あとで払っておくよ、だ。バァーーーッカじゃねえの」

 ぱちぱちと炭の燃えるいい音がしていたというのに、耳触りな雑音が聞こえて俺は眉根を潜めた。
 水を張っていた桶を遠くの台に置いて、ベッドに寝かされた妹の身体を見下ろす。
 ほっそりとした手首が力なくシーツの上に投げ出されていて、パジャマの襟元からのぞく首と、ほんの少し見えている鎖骨。
 チッとまた耳触りな舌打ちが聞こえて俺は視線を妹の顔へやった。
 最近あまりしっかりと食事をとっていなかったせいなのか、少しだけ白んで血色を失っている頬はかさついた肌触りだろう。
 いつもはきゅっと引き絞られた唇は、今だけは目ざわりなほどに弧を描いていた。
「お前、庭のどれが椿だかもわっかんねえくせによお」
 けたけた、と、薄い唇が俺を罵る。
「うるさい……」
せっかく幸せな気持ちに浸っていたっていうのに。
「死んでも、どいつもこいつも、邪魔ばかりしやがって……」
 奥歯を噛みしめると、痛んだ髪を枕に広げて妹は笑った。
「そりゃ、お前、あんだけ惨い殺し方しといて怨むなっていう方が無理だろ」

 此処には俺しか入ってこれないけど、まだまだ外にいっぱい居るよ、と。
 言われて視線をやれば、べとり、とヘドロのようなものが窓に張り付いた。
 汚い。誰があれを掃除すると思ってんだ。
 どいつもこいつも本当に面倒だ。
 ふと気がつくと、妹の唇が切れていた。
 この子は元々あまり喋らないのに邪魔な害虫のせいで台無しだ。
「医者に通わせてた両親も、主治医の男も、カウンセラーの女医も、施設の職員も、したり顔で説教してきた幼馴染のお前も、全部、ぜんぶ邪魔なんだよ。なんでわかってくれないんだ、こいつは、この子は、このまま、このまま変わらないままが――いちばんきれいなのに」
 ティッシュで、赤く染まった唇を拭う。
 クリームを塗ってやらなくちゃいけない。
 その前に害虫を追い払ってからだ。
「相変わらず自己中な男だよなあ。色んなイミで」
「早く消えてくれ、もう二度と来ないでくれ……」
 ポケットに突っ込んでいた柊の葉を数枚、取り出してちらつかせる。
 トゲのあるそれを血で濡れた唇に咥えさせると、ぴくん、とベッドの上で力なく横たわっていた身体が一度だけ跳ねた。
「まあ、また来ることになるけどなあ」
「俺はもう会いたくない……。誰も、俺のことなんて解らないくせに……」
「お前が被害者面してるのが一番笑えるよ」
 火鉢の炭が、一度、爆ぜる。
「井戸の底の水は冷たいぜ、お兄ちゃん」
 
 桶の水に一滴、波紋が広がったと思った次の瞬間には、妹はすっかり静かになっていて、俺はベトベトの窓の汚れを拭うために雑巾を取りに向かったのだった。
 



◆◆◆

お兄ちゃん(年齢不詳)
ある程度のらりくらりと生き延びてろくな死に方をしないであろう男。
かまぼこ板に残ったかまぼこをしゃぶるのが好き。

ロリ(特に数えてない)
兄が死んだあと引き摺られてそのまま地獄に行くか、生き地獄を味わい続けるか。兄のせいでろくな生死は送れないだろうが兄の本性を知らない分幸せ。
ちくわは消化に悪いので食べれない。
by shirotofu35 | 2016-01-17 20:42 | SS